人生読本~20代からの読書日記~: 「売る力 心をつかむ仕事術」鈴木 敏文著

2017年3月19日日曜日

「売る力 心をつかむ仕事術」鈴木 敏文著

今回の本はこちら。

 


●著者・・・鈴木 敏文著

●価格・・・770円+税

 

著者はコンビニ業界トップのセブン‐イレブン・ジャパンを設立した鈴木敏文さんです。

 

書名にもある「売る力」とは、いったいどのようなものでしょうか?

鈴木さんはこの「売る力」を「お客様から見て“買ってよかった”と思ってもらえる力」と定義しています。

 

モノが少なかった時代には売り手側から発信していればある程度売れましたが、現代のようなモノ余りの時代では、売り手側からではなく買い手を起点に考えなければそう簡単には売れません。

この状況の変化に対応するために鈴木さんは「お客様の立場で」考えることが非常に重要だとおっしゃっています。

 

この「売る力」では、著者鈴木さんの「お客様の立場で」考える信念や姿勢が繰り返し説かれています。

 

またセブン&アイ・ホールディングスが発行している広報誌「四季報」の中で行われた過去の対談も紹介されており、「お客様の立場で」考えることなどの重要性を違うジャンルのいろんな角度から提示しています。

 

お客様に「買ってよかった」と思ってもらえるためにどうしたらいいのか、いくつか内容をみながら考えていきたいと思います。

 

 

① 売り手に求められるのは、消費を正当化できる理由や選択を納得できる理由をお客様に提供すること

 

昔、まだ世の中にモノが少なかった時代は、売り手は百貨店のように数多くの商品を用意しそこからお客様に選んでもらうスタイルが一般的でした。

 

しかし現代はその頃よりも暮らしが豊かになり、モノ余りの時代に突入しました。

モノ余りの時代においてお客様は無数にある商品の中から選択するという行為自体に疲れてしまっています。

 

そこで、果てしなく続く商品棚から探してもらうのではなくお客様自身も気づいていない潜在的ニーズを掘り起こし、かつそれを選択する正当性も一緒に提供することで気持ちよく買っていただくことができるのです。

 

具体的にはイメージできていなくとも、商品を見て「そうそう、こういうのが欲しかったんだ!」と思ってもらえることで「買ってよかった」と思ってもらえる「売る力」に結びついていきます。

 

自分が買い手に回ったときにふと見つけたそういう感覚も非常に参考になります。

 

 

② 売り手の都合を前提に「相対的によりよいこと」を追求するのではなく、お客様の都合に合わせて「絶対的によいこと」を追求する

 

著者の鈴木さんは「お客様の立場で」考えるということを非常に重要視しています。

これと似た言葉で「お客様のために」というものもよく聞きます。

 

この「売る力」では、このふたつを明確に分けていて、徹底的に「お客様の立場で」考えるべきだと説いています。

 

「お客様のために」という考え方の場合、あくまで自分たちの現状を前提に自分たちのできる範囲内で考えがちになります。

ですが「お客様の立場で」考えた場合、本当にお客様が望んでいること、必要としていることならたとえそれが自分たちに不都合なことでもやらなくてはいけません。

 

セブン‐イレブンで「赤飯おこわおむすび」を作ったとき、試食した鈴木さんはすぐに本来の赤飯の味と違うことに気づいたそうです。

そこでどう作ったのか聞いてみたところ、本来赤飯はせいろで「蒸して」作るのが正しいつくり方なのに当時のセブン‐イレブンの工場に蒸し器がなかったため他のおむすびの製造ラインでも使っている炊飯器で「炊いて」作っていたそうです。

 

担当者はそれまで様々な赤飯を食べて調査していますからもちろん作り方を熟知しているはずなのですが、「蒸し器がない」という“自分たちの都合”で、本来の作り方を選ばなかったのです。

 

ですがお客様は「赤飯」と書いてあれば本来の「赤飯」の味を想像して商品を購入するはず。

食べた瞬間にセブン‐イレブンに失望することは目に見えています。

 

結局、新たな設備投資をして専用の蒸し器を設置し、本来の製造法で作られた「赤飯おこわおむすび」は発売直後から大ヒットを記録したそうです。

 

このように売り手の都合の範囲内で「一生懸命やる」のと、お客様の都合に合わせて「正しいことをやる」のとでは全く意味も結果も違うのです。

 

 

③ 真の競争相手は競合他社ではなく、絶えず変化する顧客ニーズである

 

個人でも組織でも同じだと思いますが、自分の得意分野というものがあった場合どうしても似たもの同士(同業他社)でどっちが勝ってるとか劣ってるとか比較してしまいがちです。

 

ですがたとえ自分たちでは他社を上回っていると思っていても、お客様の満足が得られていなければそれは単なる自己満足に過ぎません。

 

そもそもどの商品やサービスが勝っているのかの判断は買い手側がすることであって売り手側がすることではありません。

また今の時代、同業他社だけを見ていると思いもかけない異業種から競争相手が現れ自分たちを脅かす場合も多々あります。

 

そうやって周りだけを見ていても、実際に買っていただく相手である「お客様の立場で」考えることはできないでしょう。

 

そしてお客様のニーズというのは絶えず変化します。

 

斬新なものを提示しても、これまでの社会の中で一番情報の伝達の速い現代ではすぐに陳腐化してしまいます。

同じベクトルの商品であっても、一回はお客様の期待値の120%を提供して満足してもらっても次はその120%がお客様にとっての100%になるので、実質140%の商品を提供しないと満足してもらえなかったりとどんどんハードルが上がっていきます。

 

このように様々な意味で絶えず変化するニーズのなかで「変わらずにおいしいね」と言われ続けるためには、その変化する顧客ニーズに合わせて自らも変わり続けなくてはならないのです。

 

 

この「売る力」という本の中で常に一貫して説かれているのは、お客様が「買ってよかった」と思えるように常に「お客様の立場で」考えるということです。

そういう変わらない「視点」を持ちつつ新しい「ネタ」を追求することで、いつまでもお客様に選ばれ続ける企業経営ができるのだと思います。

 

自分の都合の範囲内での「当たり前」ではなく相手にとって「当たり前」のことを愚直なまでに積み上げていく姿勢は、どんな業界であってもとても大切な考え方だと思います。

 

この本には他にもセブン‐イレブンの店舗展開時の基本である「ドミナント(高密度多店舗出店)戦略」などのことも書かれていて、どんな人が読んでも参考になる点は多いと思います。

 

この「売る力」は、コンビニ業界でトップを走り続けるセブン‐イレブンの魂が詰まった一冊と言えるでしょう。

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